第184回「クリックケミストリー」

第184回 探究型ワークショップ実施!
今回は「クリックケミストリー」というテーマで探究していきました。

今回のテーマについて

ファシリテーターの木原です。

今回はノーベル賞ネタ第2弾!ということで、
前回の物理学賞に続き、化学賞を題材として扱いました。

今回の受賞テーマであるクリックケミストリーは、
ベルトがカチッとハマる様から名付けられた用語で、その名の通り、
「簡単に、効率的に狙った化学反応を引き起こす手法」
のことをいうそうです。
・副産物は水しか出ない
・水中で反応が進行する(つまり発熱反応も安全に行える)
・水や、あるいは空気(酸素)さえあれば反応する
など、とても魅力的な特徴があります。

インプットセッションでは
「ぜひ、製薬会社の社長になったつもりで聞いてみてください」
という前置きをしてみました。準備段階で色々調べる中で、特に製薬の分野を大きく変えていくものだということが分かったためです。

製薬をはじめ、人の役に立つ化学反応は常に模索されています。
そして人の役に立つ化学反応は「大量生産」的に行えなければなりません。
(例えば、有効な薬になるけど、1日1個しか作れない、のでは商品化はできないのです、、)
そうなると、例えば
「材料の半分は無駄になる」
「有毒な副産物が生じる」
といったロスは大変なコストになります。


また
「反応を起こすには100℃近い熱湯を1日中維持しないといけない」
など、難しい環境下でしか起こらない反応も汎用的とは言えません。


それが
「常温の水中で反応する」
「副産物も出ない」
となれば、これはもう革命的と言えそうです。

始めは「クリックケミストリー」と聞いてもピンときませんでしたが、
調べてみるほど「すごい研究なんだな~」ということを実感することができました!

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グループトーク

参加者の意見・やりとり

こんばんは

K.Barry zsharpless は、ノーベル化学賞2回目の受賞ですね。

甲子園みたいな感じなんですね〜そうなのですよね!

凄いですよね、、

一回めは、日本の当時名大の野依さんと不斉合成関係ですね。

今回、野依さんがインタビュー答えられてましたね。
凄く好奇心旺盛でアクティブな方だと。

名古屋メダル、、でしたっけ?
それも受賞されているのですよね。

海外はいいか悪いか別として教授定年ないから😁

なるほどです。。(笑)

【クリックケミストリーが進んだら?】

A,危険なものをより取り扱う方向に
→アジド系化合物など危ないから使わないものが
危ないけど(クリックケミストリーなら大きなメリットあるので)使おうぜ!となる可能性。
メリット>デメリットなら爆発物にも踏み入れるのがヒトというもの…

B,医療への転用
糖鎖マッピングでの治療薬、検査薬開発
(免疫系やがん細胞などについている糖に”いい感じな”ものをくっつけることで検査や治療も!)
狙えて、無駄が少なくなることで体への負担も減る…かも。

C,考え方の普及
クリックケミストリーを
難しい問題(結合/生成)を簡単なモノから、という考え方と解釈すれば、
この考え方自体がさらに流行る、転用されるかも。
*勉強なんかも”超えられるハードルを一歩ずつ”みたいなのはよいですよね!

  • 社会をどのように変える?
    • 患者一人ひとりに合った薬を開発できる
      • 現在では、効く薬を探す、合わない、合ってもそのうち効果が薄まる…の繰り返し
    • より良質な薬の開発
      • 副作用を低減(特に抗がん剤)
    • 疫病に早く対応できる
      • ワクチンをすぐに開発できる
    • 薬代が下がって、平等に治療を受けられる
      • 社会保障費にかける国費↓、他のところに使える
    • 「モノ」の価値が変わる?
      • 貴重なものが貴重ではなくなる….
      • 天然であることの付加価値がつくかも?でも精巧に作る技術ができると…?
  • どのような研究につながる?
    • 常に体の状態を把握する
      • 追跡機能を活かす、健康診断要らず
    • 新しい材料
      • 環境破壊の減速
        • 生分解性プラスチック(biodegradable plastic)など
        • レアメタルがレアではなくなるかも

量子コンピュータのシミュレーションとも相性良さそうですよね~

量子コンピュータで、クリックケミストリーをシミュレーションしたらどんどん反応パターンを発見できそうな気がします。

天然物化学

クリックケミストリー:
人間のものに対しての不満を解消できる=不満のない世の中。

そこから発展して個々のオリジナルのものを作ることができる
→唯一無二のもの:3Dプリンターの発達も必要?
→それぞれの人の価値観が重要視される

不満を見つけることに価値がある時代が来るかも?

今まで実験室や専門的な施設で行われていた反応が、各家庭(?)でできるようになるケースはあるかもって思いました!

今まで実験室や専門的な施設で行われていた反応が、各家庭(?)でできるようになるケースはあるかもって思いました!オーダーメード医療の研究はされてますね。

ドラえもんの世界観が実現するかもしれませんね

~クリックケミストリーの未来について~

クリックケミストリーはシンプルな合成方法であり、有用な物質の探索や開発を大きく効率化するもので ある。一方として、その歴史は長いとは言えないものであり、まだ課題点もある。実際、生きた細胞中で のクリックケミストリーは、触媒の銅が細胞に対して毒性をあるため上手くいっていない。銅触媒に代わ る新たな触媒が発見され、それが生きた細胞に害を及ぼすことがないとしたらクリックケミストリーでの分 子合成においてさらなる進歩を遂げることが可能になるだろう。また、先に例に出したアルツハイマー型 認知症の治療薬についてもクリックケミストリーが進歩したり、他の画期的な方法と絡んでいくことでいつ しか根本的治療も可能になる日が来るのではないかと考えられる。まだ長くない歴史からの未来、その 長くない歴史の中でもいくつもの画期的な開発から見える多くの可能性に期待が寄せられる。

実際にクリックケミストリーはどのような場面で使われているか。

まず挙げられるものは酵素阻害剤である。酵素阻害剤とは生体反応の反応速度を低下させる物質で、

薬剤の多くは特定の酵素の働きを阻害することによって作用している。
たとえば、実際にIn situクリックケミストリーを使って開発されているのはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)という物質の阻害薬である。AChEはアセチルコリンという神経伝達物質を分解する酵素なのだが、 このアセチルコリンが多く分解され減少してしまうとアルツハイマー型認知症につながっていってしまう のだ。だが、先に書いたAChEの阻害薬を使うことでアルツハイマー型認知症の治療を行うことができる (現在アルツハイマー型認知症を根本的に治療することはできず、この阻害薬も信仰抑制剤として使わ れる)。

また、キチナーゼという酵素の阻害剤の開発も行われた。キチナーゼはキチンという物質の分解をする 酵素である。また、キチンは甲殻類や昆虫の外骨格の主成分であり、真菌などの細胞壁を構成してい る。キチンの合成、代謝過程は無脊椎動物の生命維持や増殖において重要な役割を果たす。ではキ チナーゼの阻害剤が何に使われようとしているかというと、こたえは殺虫剤や抗真菌剤だ。キチンは無 脊椎動物において重要な物質であるが、脊椎動物にはキチンがほぼ存在しない。よってキチナーゼ阻 害剤を用いた殺虫剤や抗真菌剤はとてもより選択性が高い(ヒトなどに対してより害が少ない)ものにな るといえるだろう。

今回、2例を上げてみたわけだが、クリックケミストリーは意外にも身近にあってもおかしくないようなもの の開発にも使われているのだ。

参考文献

・M. G. Finn, Hartmuth C. Kolb, Valery V. Fokin, K. Barry Sharpless (2007) 『クリックケミストリーの 概念と応用』
https://www.nara.kindai.ac.jp/laboratory/nat_pro_chem/pdf/click.pdf
・道信 剛志 (2017) 『クリックケミストリーを用いた高分子合成』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/9/65_444/_pdf/-char/ja

・岩渕 好治 (2012) 『クリッ クケミストリー :世界を変える素反応』

https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/48/7/48_KJ00009750185/_pdf/-char/ja

・畑 誠司 (2011) 『クリック型反応の新展開 ―ペプチドケミストリーへの応用―』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi/69/10/69_10_1158/_pdf/-char/ja

・吉田 優 (2017) 『生体分子を高効率で標識する超高速クリック反応』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/4/53_359/_pdf/-char/ja

・北山 隆、馬場 良泰 (2012) 『クリックケミストリー 創薬やケミカルバイオロジーの強力なツール』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/6/50_414/_pdf/-char/ja

ファシリテーターの意見

〇クリックケミストリーのいいところ(整理)
・水中でできる
・狙った相手とのみ反応させることができる
(他のものに阻害されにくい)
・反応で使われる「アジド」ヤ「アルキン」は生体内に存在しないものなので、体内での化学反応が起きにくい
(つまり副作用が起こりにくい)

〇どのように社会を変えていくか?

・キーワード:創薬
量子コンピュータとの組み合わせで薬を簡単に作れるように

・キーワード:手軽
1家に1台クリックケミストリー(創薬とか、何か)的な。

クローン技術の進歩
人の体も高分子でできている
⇒生体反応のクリックケミストリーが発見されたら、生体創造のコストが下がるかも
(それがいいかどうかは分からない)

〇どんな研究につながるか
・何を手軽に作れるか?
・クリック反応できない領域って?
・金属を触媒に使わない反応の模索(実際に行われている)
 ↓ ↓
「金属触媒を使うため、用途が限られる」
https://bizcomjapan.co.jp/iris-biotech/products/click/reaction/

ご参加くださった皆様、ありがとうございました!
またやりましょう。

次回は

1月6日(金)19:30~21:00
第185回「Hello! 2023年」を予定しています。

引き続き、楽しくて学びになる探究を実施してまいりますので、お楽しみに!